世界で推定毎年20万人の労働者が職場での受動喫煙により命を落としている。受動喫煙に安全なレベルはない。全面禁煙の実施が受動喫煙の被害から人々を守る唯一の効果的な方法だ。(by WHO)

日本も加盟しているWHOの「タバコ規制枠組み条約」では、「2010年2月までにすべての公共の建物内の完全禁煙」をガイドライン(指針)としています。子ども、家族、自分、大切な人がタバコの被害を受けない社会作りが必要だと思います。

                
 動画CMコンテスト受賞作品(NPO法人日本禁煙学会)


   

特集●明日からできる禁煙治療

特集●明日からできる禁煙治療 Vol.1
「本数を減らす」「軽いたばこ」はNG
成功の第一歩は禁煙補助薬の上手な活用
末田聡美=日経メディカル
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t117/201011/517370.html
 かつてない“禁煙ブーム”が訪れる中、医師には、禁煙促進のための積極的な関与が求められている。本特集では、禁煙を成功に導くための問診や指導のコツ、禁煙補助薬の上手な使い方など、禁煙治療の実践的なテクニックを紹介する。
 10月のたばこ値上げを機に、禁煙にチャレンジする人が急増している。禁煙外来を設ける医療機関には患者が殺到し、10月上旬には、経口禁煙補助薬であるバレニクリン錠0.5mg、同錠1.0mg(商品名チャンピックス)が欠品となったほどだ(関連記事:2010.10.14「禁煙希望者が殺到 禁煙補助薬チャンピックスが欠品に」)。
 10年以上前から禁煙外来を設けているたかの呼吸器科内科クリニック(熊本県八代市)にも、たばこの値上げをきっかけに新規の受診患者が押し寄せている。例年は平均して月10人に満たなかった新規患者が、今年は9月だけで75人。10月以降は、経口禁煙補助薬が欠品(2011年1月に新規患者への供給開始予定)になったため新規患者の受け入れを一時中断しているが、それでも10月末時点で、65人が予約待ちの状態だ。

広がる喫煙者包囲網
 禁煙の流れが加速している背景には、世界規模での社会的な変化がある。2005年には「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が国際法として発効した。たばこ価格や税の引き上げ、喫煙場所の制限などのたばこ規制が国際的に推進され、公共スペースでの禁煙を法制化している国が増えている。
 国内でも最近、受動喫煙による健康被害などを防止するため、職場や飲食店では禁煙の動きが広がっている。厚生労働省は今年5月に、職場は原則全面禁煙、または空間分煙とすべきとする内容の「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会報告書」を発表。横浜市では同じく今年4月から、全国に先駆けて公共施設での「受動喫煙防止条例」条例を施行している。
 たばこの健康被害の大きさを示す報告も年々クローズアップされており、9月には、受動喫煙で年間6800人が亡くなっているとの推計結果を厚労省が発表している。

麻薬や覚醒剤以上に高い依存性
 たばこは体に害だということは、既に多くの人が知っている。しかし、その依存性の強さゆえ、簡単にはやめられないのもたばこの大きな特徴だ。

図1 ニコチン依存症になるメカニズム(提供:高野氏)

 たかの呼吸器科内科クリニックの高野義久氏は、「たばこは嗜好品で本人が好きで吸っていると考えられがちだが、喫煙者の7割はニコチン依存症。ニコチンは麻薬や覚醒剤など、他の依存性薬物と同等かそれ以上に依存性が高いとされており、自分の意思でコントロールするのが難しい」と話す。
 喫煙者では、タバコを吸うことでニコチンが脳内のアセチルコリン受容体に結合すると、ドパミンが放出されて快感や報酬感が得られる仕組みになっている(図1)。
  また、喫煙本数を減らしたりニコチン含有量の少ない表示のたばこに替えたりして、徐々にニコチン摂取量を減らそうとする人は多いが、数々の研究から、節煙しても体内のニコチン摂取量はほとんど変わらないことも分かっている(関連記事:2010.4.16「たばこの本数は徐々に減らすべきか」)。
 「軽いたばこに変えたり本数を減らすと、1本を深く根元まで吸い込むなどして、無意識に同じ量のニコチンを摂取しようとする。かえってニコチンの離脱症状が強くなり、やっと吸えたときの快感も大きくなる。禁煙する場合に最も大事なのは、一気にやめること」と高野氏は強調する。

保険診療の実施には「ニコチン依存症管理料」の届け出が必要
 ニコチン依存症は病気であるとの認識から、禁煙治療は06年に保険適用となった。保険診療は「ニコチン依存症管理料」を算定して実施する。算定には、所定の基準を満たして都道府県の社会保険事務局に届け出る必要がある(表1)。

表1 ニコチン依存症管理料を算定するための主な条件

<施設基準>
●ニコチン依存症管理施設の申請
●担当の医師、看護師の配置
●呼気中の一酸化炭素測定器の導入
●敷地内禁煙
●年1回、社会保険事務局長に禁煙成功率を報告

<対象患者>
●ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断(5点以上)
●ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上
●ただちに禁煙することを希望し、禁煙治療を受けることを文書で同意
●初めて禁煙治療を受ける、もしくは前回の禁煙治療から1年経過

参考:日本禁煙学会のホームページ

 治療開始までの一般的な流れは、(1)問診票を基に面接(保険適応の条件を満たすかも確認)、(2)呼気一酸化炭素濃度を測定、(3)患者にニコチン依存や禁煙の害などについて説明、(4)治療の同意を得て開始―となる。日本循環器学会などの関連学会が作成した「禁煙治療のための標準手順書」なども参考にするといいだろう。
 主な禁煙補助薬には、ニコチン製剤のニコチンパッチ、ニコチンガムと、経口禁煙補助薬であるバレニクリンがある。保険診療で使える薬剤は、バレニクリンとニコチンパッチの2つだ(表2)。

表2 ニコチンパッチとバレニクリンの比較(高野氏提供の資料を一部改変)

禁煙補助薬で成功率は1.6~3.2倍に
 2剤とも、禁煙により欠乏するドパミンがなくならないよう作用するため、イライラや不安、集中困難といった離脱症状を軽減できる。そのため、自力で取り組むより楽に禁煙できるとされ、禁煙成功率も高いことが明らかになっている。一般的な禁煙成功率は、自力での禁煙を1とすると、ニコチンパッチは1.66倍(Stead、2008)、バレニクリンは3.22倍(Cahill、2007)だ。
 バレニクリンは、ニコチンの類似物質でニコチン受容体に選択的に結合する。少量のドパミンが放出されて禁煙欲求を抑えると同時に、ニコチンの結合を妨げて喫煙による満足感を抑制する。たばこをおいしく感じさせなくするのが最大の特徴だ。
 服用期間は12週間。「最初の1週間は薬剤に徐々に慣れるための期間となっており、喫煙したままでもいい。ただし多くの場合、吸ってもおいしくなくなるので、禁煙開始の8日目には自然とやめやすくなる」と中央内科クリニック(東京都中央区)副院長の村松弘康氏は話す(図2)。

図2 バレニクリンを使った保険診療の流れ

 一方のニコチンパッチは、たばこの代わりにニコチンを経皮的に補充することで禁煙時の離脱症状を軽くする作用がある。用量は3種(30mg、20mg、10mg)があり、これを徐々に少ない量にして、8週間継続する。こちらはパッチを貼る日から一気に禁煙しなければならない。
 主な副作用としては、バレニクリンは吐き気、ニコチンパッチでは皮膚のかぶれがある。両者の特徴を説明した上で、どちらの治療法を選択するか患者と相談していくが(前ページの表1)、基本的には、成功率の高いバレニクリンを第1選択肢にしている医療機関が多いようだ。
 石川県立中央病院呼吸器内科診療部長の西耕一氏は、「バレニクリンはまれにうつや自殺企図といった精神的副作用の危惧もあるため、精神疾患のある人では基本的にニコチン製剤を使うことが多い。一方、ニコチン製剤は血管収縮作用があるため、心・脳血管障害がある人ではなるべくバレニクリンを選択する。また、以前禁煙にチャレンジしたことのある人なら、前回と違う方の薬剤を選択するのが基本」と話す。
 禁煙治療にかかる費用は、自己負担が3割でニコチンパッチの場合は1万2000円程度、バレニクリンは1万8000~1万9000円程度。いずれの方法でも1日200円程度の負担だ。「毎日1箱たばこを吸うより安く、費用の面でも患者に勧めやすい」と村松氏は話している。
【写真】「禁煙は、一気にやめることが大切」と強調するたかの呼吸器科内科クリニック院長の高野義久氏。



特集●明日からできる禁煙指導 Vol.2
禁煙成功率を上げる問診・指導のコツ
生活環境の把握を喫煙要因の除去につなげる
末田聡美=日経メディカル
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/t117/201011/517372.html
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t117/201011/517372_2.html
 保険診療で禁煙治療を完遂した患者では、治療終了9カ月後の禁煙成功率は約5割との報告がある(厚生労働省「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査」)。ただし、その成功率は医療機関によって差がある。成否を左右する大きな要因は、初回の診察で喫煙にまつわる重要な情報をいかに聞き出し、それをその後の指導に結び付けられるかどうかだ。

図1 禁煙治療に関する問診票(日本循環器学会ほか「禁煙治療のための標準手順書」より)

 問診では、本人の禁煙の動機や生活環境、禁煙への自信などを把握することがポイントになる。これらは、その後の指導やフォローの際に重要な役割を果たすからだ。特に禁煙の動機は、のちにことあるごとに再確認していくことが欠かせない。
 問診は、「禁煙治療のための標準手順書」に沿って行うとよい。標準手順書では図1、2のような問診票を使うこととされている。また、専門医たちは、特に以下のような点に留意して問診を実施している。

まずは日常生活での喫煙場面を確認
 たかの呼吸器科内科クリニック(熊本県八代市)院長の高野義久氏が特に重きを置いて聞いているのが、患者の生活環境だ。「喫煙を始めるきっかけの大半は、周囲の環境によるもの。再喫煙をする理由も多くは環境による。依存症から抜け出すためには必ず生活環境を変える必要がある」と同氏は話す。
 そのため高野氏は、患者の生活環境をとにかく詳しく聞く。たばこを吸う場所やタイミング、家族の喫煙者の有無、職場の喫煙環境、周囲の喫煙者の割合といった具合だ。

図2 喫煙状況に関する問診票(日本循環器学会ほか「禁煙治療のための標準手順書」より)

 「特に男性の場合、パチンコや宴会、釣りなどのシーンが危ない。女性の場合には友人に喫煙者が多く、ほとんどのケースで夫が喫煙している」(高野氏)。

30~40代での喫煙開始は要注意
 また、喫煙開始年齢も、治療のスタンスを考える上で重要なポイントとなる。喫煙者の8割近くは、18歳までに喫煙の常習者になっているという報告もあり、未成年者の方が依存になりやすいことも分かっている。
 喫煙開始年齢が10代前半または30~40代という人は、特に注意を要する。石川県立中央病院呼吸器内科診療部長の西耕一氏は、「開始年齢があまりに早いと家庭の問題があったり、逆に30代以降での喫煙開始は、嫁姑問題や離婚といった精神的につらい事情を抱えていることも少なくない。こういった人は、喫煙の原因となっている背景がある程度緩和されないと治療が難しい」と言う。
 タイミングも、禁煙の成否を左右する大きな要素だ。「禁煙へのモチベーションが上がっていて、禁煙を阻害するような大きな問題がない時期を狙って実施する方が成功率は高くなる。家庭などに複雑な事情を抱えている人に対し、無理に禁煙を勧めるのは考えもの」
と西氏。
 このほかでは、禁煙への自信の度合いを把握することも欠かせない。例えば、前ページで紹介した図2の問診票には、禁煙する自信が100%のうちどの程度あるのか尋ねる項目がある。西氏は、「10%と回答されたら、自信の障害になっている90%は何なのかを聞き出す。それまでに把握した阻害要因と合わせ、それらに対する対策を一緒に検討すれば、より効果的な指導が可能になる」と話す。
 これら患者の状況を踏まえて、たばこの害やニコチン依存の説明して治療の同意を得ることになるが、その際にもコツがある。中央内科クリニック(東京都中央区)副院長の村松弘康氏は、「たばこの害の話は多岐にわたるが、すべてを説明する必要はない。問診で聞き出した禁煙の動機や既往歴などの情報から、本人にとってツボとなる情報を中心に説明していく」と話す。例えば、父親が脳卒中だという患者なら、脳卒中リスクのデータを中心に見せる。子供への害を気にしている人へは、受動喫煙の恐ろしさを伝えているという。

失敗につながりやすい要因を事前に排除する
 禁煙を始めると、最初の1週間は特に再喫煙が起こりやすい。再喫煙の理由となりやすいのは、食後や宴会の席、夫婦喧嘩や仕事のストレスなどだ。そのため、治療開始前に可能な範囲で策を講じておくことが大切だ(表1)。
表1 禁煙治療開始に備えた事前対策の例

 まず検討すべきなのは、生活環境の改善。たばこやライターなどの喫煙具はきっぱり捨てるといった簡単にできる方法のほか、家庭内の喫煙者がいる場合には、屋外で喫煙してもらうように頼むといった対策も考えられる。「朝トイレに行ってすぐたばこを吸う人なら、トイレの壁に『禁煙』の貼り紙をしておくのもいいだろう」(たかの呼吸器科内科クリニックの高野氏)。
 また、喫煙と結びついている生活パターンを変えることも有効だ。「多くの喫煙者は、だいたい毎日同じような時間に同じ行動をした後に喫煙している」(高野氏)。そのため、実際の生活の中で再喫煙しやすいシチュエーションをピックアップし、避けるために事前に実行できそうな対処法を一緒に考える。
 例えば、飲み会で吸いたくなるなら、自信がつくまで家で飲んでもらったり、禁煙を宣言して周りの協力を得ながら宴会に参加する。コーヒーとたばこをセットにして一服していた人なら、コーヒーをやめてお茶や紅茶に変えるといったやり方が効果的だ。このほかでは、パチンコ屋や居酒屋など、たばことセットになりがちな場所にはしばらく近づかない、駅から自宅までの行き来にたばこの自販機などがあるルートを通らないといった対策もあり得るだろう。



特集●明日からできる禁煙指導 Vol.3
こうやれば禁煙治療を継続させられる
副作用と離脱症状の見通しを伝える
末田聡美=日経メディカル
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t117/201011/517397.html
 禁煙補助薬を使った治療を始める際に重要なのは、自己中断を防ぐため、あらかじめ先の見通しを教えておくことだ。「Vol.2 禁煙成功率を上げる問診・指導のコツ」で紹介した生活環境の改善法に加えて、特に離脱症状と禁煙補助薬の副作用についてはしっかりアドバイスしたい。
 たばこからの離脱症状の典型例は、イライラや集中力の低下。これらは禁煙補助薬を使えば軽減されるが、それでも必ず出現する。「症状のピークは通常3~4日目で、続いてもせいぜい1週間」(たかの呼吸器科内科クリニック院長の高野義久氏)。そのことを事前に伝えておけば、患者は心の準備もできるし安心するだろう。
 現在、保険診療で使える禁煙補助薬は、ニコチン製剤のニコチンパッチと経口禁煙補助薬であるバレニクリンの2つだ(表1)。

表1 ニコチンパッチとバレニクリンの特徴と副作用

 バレニクリンの副作用については、とりわけ吐き気への対策が重要になる。「特に女性では吐き気が強く出る人が多い」(石川県立中央病院呼吸器内科診療部長の西耕一氏)。バレニクリンは1日2回1mg錠を服用するが、副作用が強いケースでは減量を検討する。西氏は、1mg錠を2つに割って1回当たりの服用量を0.5mgに減らし、1日2回飲むように勧めている。
 一方、ニコチンパッチは、皮膚のかぶれが問題になるケースが少なくない。その場合、貼る場所の変更や減量で対応するとよい。中央内科クリニック副院長の村松弘康氏は、「シートを半分残すようにして切り、皮膚にくっつく部分が半分になるようにして使用したり、夜寝る前にははがすように勧めている」という。また、ステロイド軟膏を処方することもある。
 このほか、女性で多い訴えが体重の増加。「喫煙していると栄養吸収が悪くなるため、禁煙を機に体重増加が起こりやすい。事前に、『たばこをやめると通常2~3kgは増えますよ』と伝えておくとよい」(村松氏)。

再喫煙しても来院しやすい雰囲気を
 保険診療の禁煙治療では、12週間で5回受診してもらわねばならないが、実際には、最後まで受診する率は決して高くない。厚生労働省の「ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査」によれば、5回の診療を完了した患者の比率は約35%だ。また、外来受診を途中でドロップアウトした人の再喫煙率は非常に高いといわれており、最終受診日まで継続して来てもらうことも禁煙成功の大きな鍵となる。 
 たかの呼吸器科内科クリニックの高野氏は、診察時には禁煙が続いていることをねぎらい、ほめるようにしている。そして診察後に毎回、次回の受診までに生活で注意すべき点を書いて渡している(図1)。無事禁煙に成功した際には、最終診察日に患者に「卒煙認定証」を渡している。
 また、石川県立中央病院呼吸器内科診療部長の西氏は、「再喫煙してしまうと、後ろめたくなって来なくなる人もいるが、失敗しても必ず来るよう念を押している」と話す。「1回でやめらればそれに越したことはないが、なかなかそうはいかないのが現実。失敗を必要以上に責めるような姿勢は慎み、何度も禁煙に挑戦してもらえるような気持ちを患者に持ってもらうことが大切」と話す。実際、複数回のチャレンジで成功するケースは少なくない(下記の症例を参照)。
 「医師が怒ったり説教くさくなると嫌な印象を与え、場合によっては禁煙する気が失せてしまう患者もいる。失敗した患者には、『次回禁煙したくなったらまたここに来よう』と思ってもらえるような雰囲気づくりを意識している」(西氏)という。
 禁煙が成功しても、1年後にはかなりの確率で喫煙者に戻ってしまうのも禁煙治療の難しさだ。「うまくいってしばらくすると、『1本くらいなら』と気持ちが緩みやすい。そこで1本吸ってしまえば、すぐ元のニコチン依存に戻ってしまう」と高野氏。
 かかりつけの患者であれば、その後の受診の機会にさりげなくフォローすることも可能だが、問題は、禁煙治療以外では付き合いのない“一見”の患者だ。そうした場合は、医師会活動でそうした患者のかかりつけ医と会った際などに、(1)禁煙の継続状況を確認し禁煙が続いている場合には患者をほめる、(2)1本でも吸えばすぐに元通りになることを患者に訴える、(3)禁煙の意義について折りに触れ説明する、(4)禁煙の効果について患者自身の口から語ってもらう―といったことを、可能な範囲でやってもらえるようにお願いするとよいだろう。


3回目のチャレンジで禁煙に成功した症例

60歳代 女性
喫煙歴:10~12本/日(喫煙開始年齢:38歳)
TDS(タバコ依存症スクリーニングテスト)9点
呼気一酸化炭素:9ppm

現病歴:過去2回禁煙に取り組み、最長で2カ月禁煙したが仕事のストレスで再喫煙。最近汚い痰が出るようになり、医師にからたばこによる慢性気管支炎と診断された。そのため再び禁煙に挑戦しようと思い、石川県立中央病院の禁煙外来を受診。喫煙のきっかけ:家事と仕事の忙しさでストレスを感じている時期に、喫煙者の夫と一緒に自分もたばこを吸うようになり、喫煙習慣が身に付いた。
禁煙歴:糖尿病があるため、医師から強く禁煙を勧められていた。最初はニコチンガムで禁煙に挑戦したが、効果が弱く喫煙欲求を十分抑えられなかった。その後、ニコチンパッチを使用。ガムより効果があったものの、皮膚の接触皮膚炎がひどく継続使用できなかった。そのため、結果的に禁煙に失敗。治療経過:喫煙のタイミングとしては、食後や事務仕事の合間が多いとのこと。そこで、たばこが吸いたくなったら深呼吸したりお茶を飲む、あるいは席から離れて体操や散歩するといった対策をアドバイス。
 また、以前ニコチン製剤で禁煙に失敗したため、治療にはバレニクリンを使用。治療開始第1週は、食後やいらいらした時などにたばこがどうしても吸いたくなり、2日に1本のペースで喫煙。だが、バレニクリンの効果により喫煙の満足感が得られなかった。タバコを吸っても仕方がないとの気持ちが高まり、第2週から完全に禁煙できるようになった。
 その後、バレンクリンの副作用として胸やけや胃もたれが生じたため、2mg/日から1mg/日に減量。さらに、体重の増加を認めたため、たばこが吸いたくなったときはなるべく歩くこととした。第12週の禁煙治療終了時には、いらいらしても周りでたばこを吸われても気にならない状況になった。

患者が自力で禁煙を目指す場合
 患者が保険診療を使わず自力で禁煙する場合には、薬局で販売されているOTCのニコチンパッチやガムを使用するか、何も使わないで行うことになる。中央内科クリニック副院長の村松弘康氏は、自力禁煙を目指す患者には、禁断症状を少しでも和らげるためにやはりニコチン製剤を使うことを勧めている。ガムとパッチは同じニコチン製剤だが、それぞれ特徴がある(表2)。大きな違いは、吸収の仕方だ。

表2 ニコチンガムとニコチンパッチの比較(提供:村松氏)

 たばこを吸うと、ニコチンの血中濃度は速やかに上がって速やかに下がる。「このスパイク型の血中濃度の変化が依存を作りやすい」と村松氏。「ガムはスパイク型の波をつくるので、依存から離脱できない可能性もある。一方、パッチは血中濃度の変動が少ないため依存ができにくい」という。
 また、たかの呼吸器科内科クリニックの高野氏は、「期日を決めて一気に禁煙を実行する、一定の禁断症状を覚悟するといった成功のポイントは、保険診療の場合と同じ。こららの留意点を、きちんと説明するとよい」とアドバイスする。
 なお、禁煙パイポや電子タバコなど、たばこの代わりに市販の禁煙グッズについて専門医らは、「タバコを連想させるようなものはやめた方がよい。くわえる癖がいつまでも抜けず、結局禁煙にはつながりにくい」と否定的なスタンス。村松氏は、「飴やガム、飲み物など、喫煙とは別の動作を伴うものに代えた方がよい」と言う。また、電子たばこについては、人体に有害な化学物質が検出されたと米国食品医薬品局が発表している。


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2010年11月23日 Posted bytonton at 20:00 │Comments(0)禁煙

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